線香は『におい』?『かおり』?

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『におい』に敏感な現代

 最近『におい』対策の商品が増えているように感じます。部屋のにおいを消すための消臭剤や消臭スプレー、洗濯物に強い香り付けをするような柔軟剤など、日常の不快なにおいを消すツールが非常に多く取り揃えられています。仏事の中の線香においてもその傾向はみられるようになってきています。『線香臭さ』が気にならない微香・微煙さらには無香・無煙タイプが量販店で売られている線香の主流になりつつあるようです。

線香は『くさい』!?

 本来、仏前へ供える『お香』と香りを楽しむための『お香』との区別はないのですが、全く別物と思っている方もいるようです。それはおそらく我々の身近なお店に置いてある線香の品揃えのせいなのかもしれません。量販店で売られている仏前用線香は一箱あたりの量をできるだけ多く、かつ安い値段で提供できるよう製造されたものが多いため、無煙無臭タイプでないものだと、煙たいものやきつい香りのものが多いです。仏前用線香として量販店で売っているものがそのようなタイプであるため、線香=煙たい、くさい、というイメージにつながったのかもしれません。

 そういったことからも現代において、『線香の香り』は極端な言い方をすれば『消さなければならない悪臭』に近いものに分類され極力無くす方に向かっているように思われます。化学物質が大量に入れられた線香のにおいが線香の香りであると勘違いされたまま『線香=臭(くさ)いもの』と認識されつつある現状を非常にもったいなく思っています。このような認識があるせいかはわかりませんが、葬儀・法事・日常の仏前へのお供え物の中において、お花や果物・菓子などのお供え物と比較して最も軽んじられがちなお供え物が『お香(=線香・焼香』)であると私は感じています。

なぜお香を供えるのか

 お香はお釈迦様が誕生されるよりも以前、今から3,000年以上前から用いられており、それが中国を経て日本に伝わったといわれております。お香は自らの体を清めるために用いるものとされるだけでなく、亡くなった人が四十九日までのあいだに食べることができる唯一のものであると古くから言われておりました。人が亡くなってから四十九日の間まで線香を絶やしてはいけないというのもこのためなのです。

香十徳

 宋の詩人である黄庭堅こうていけんによって詠まれたといわれる『香十徳』という詩があります。これはお香を焚くことによって得られる効能を表した詩で、日本には一休宗純が紹介したといわれています。

感格鬼神 感覚を鬼神のごとく研ぎ澄まし、
清浄心身 心身を清らかにし
能除汚穢 よくけがれを取り除き
能覚睡眠 よく眠気を覚まし
静中成友 静けさの中に安らぎをもたらし
塵裏偸閑 忙しい時にもちょっとした時間で楽しむことができる
多̪而不厭 多くても邪魔にならず
寡而為足 少なくても十分に足りる
久蔵不朽 長い間貯蔵しても劣化せず
常用無障 常に用いても差し障りはない

昔からお香はいろいろな国や宗教の人々に心の安息材として使われてきたのです。

お香の種類

 それではお香を選ぶ際どのように選べばよいのでしょうか?お香といっても様々な形状があり、含まれる成分によって香りも全く異なってきます。比較的身近なお香の分類は以下の3つです。

線香:タブの木の樹皮を粉末にしたものを『つなぎ』として様々な香木や香料を入れたもの。香木や香料の比率が高いほど高級品といわれる。
焼香:香木などを刻んだものを薫じて香りを出す
塗香ずこう:香木などを粉末状にしたものを手や体に塗る

以下は古くからお香の原料とされている主な香木です。
白檀びゃくだん:香木の中では最も軽い香り。西洋のアロマにも「サンダルウッド」という名前で使用される。甘い香りが特徴で、木自体が香るため常温でも香りがする
沈香じんこう:木の樹脂が年月を経て木の内部に蓄積した部分。樹脂が沈着した木は重くなり水に沈むため『沈水香木じんすいこうぼく』〔=沈香〕と呼ばれる。常温では香らず薫じたときに初めて香りが出る。産地によって香りに差がある
伽羅きゃら:沈香の中でも特に最上級のもの。産出量は極めて少なく、その香りは「甘・酸・辛・苦・鹹(しおからい)」の五味に通じると言われている。価格が高騰し続けており、現在ではグラム当たりの価格が金の10倍ほどになっている。

 ほかにも、お香には丁子ちょうじ龍脳りゅうのう桂皮けいひ〔=シナモン〕など漢方薬や香辛料にも使われるものが香りづけの成分として使われており、天然の香料を使ったお香は上記のような様々な成分を配合して作られています。線香と焼香とで比較すると線香のほうが手軽に使える上に香りも軽いものが多いため、お試し用の線香などでいろいろな香りを試したうえで自分に合ったものを見つけるのが良いと思います。

線香アレルギーについて

 稀(まれ)に『線香アレルギー』という文言もんごんを見ることがありますが、これはあまりに乱暴な表現であると言わざるを得ません。医師がブログなどで平然とそのような用語を使っている場合もあり驚いてしまいます。例えて言うならば「シーフードパスタを食べたらアレルギー反応が出たから私はどんな種類のパスタも食べられません」というのと同じようなものだからです。上記の通り、お香は単一の物質でできているものではなく、様々な成分が入っています。ゆえに、あるお香にはアレルギー反応を起こすのに別のお香では何でもないこともあります。最近は線香の中に化学物質を調合し香りを作っているものも数多く存在します。線香を焚いたときアレルギー反応があった場合、まずは天然香料を使った線香に切り替えるのも一つの手かもしれません。

最後に

 お供え物の中で忘れられるどころか香り自体を抹殺されかねない状況になりつつあるお香。ほかのお供え物と比べ、同じ値段を出せば一度に使う量が多くないので長い間お供えし続けられるのもお香の特徴です。
 いろいろな芳香の商品がありますが、ぜひお香にも目を向けてみてください。高級なお香でなくともよい香りのお香はたくさんあります。いろいろなお香を試して自分のお気に入りの香りを見つけ日々のお参りの際お供えされてはいかがでしょうか?きっと、お参りの時の心持ちも変わってくることと思います

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